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最高裁判所第二小法廷 昭和48年(オ)910号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人国府敏男の上告理由について。

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人と被上告人との間に本件商品取引委託契約が成立したものとする原審の認定判断は、正当として是認することができる。なお、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)は、右契約の締結につき被上告人の外務員が上告人又は被上告人を代理したものと認定したわけではないから、原判決が民法一〇八条又は商品取引所法九一条の二の解釈適用を誤つたという所論は、その前提を欠く。

ところで、所論は、原判決が、本件商品取引受託契約につき、商品取引所法九一条一項、九四条一項一号、九六条一項、九七条一項にいずれも違反する事実を認めながら、右契約の効力に影響がないと判断したことの違法をいう。よつて案ずるに、商品取引員が商品取引所法九一条一項に違反して営業所以外の場所で取引の委託を受けても、同条項は商品取引員に対する訓示的規定たるにすぎないと解せられるから、右違反は、契約の効力を左右するものではない。次に、商品取引員が新規の委託者から取引の委託を受けるにあたつて、同法九六条一項に依拠する受託契約準則の定めるところにより準則(書面)を委託者に交付せず、かつ、委託者から準則にしたがつて契約することを承諾する旨の書面または契約書を徴収しなかつたとしても、その契約の効力に影響を及ぼさないことは当裁判所の判例とするところであり(昭和三九年(オ)第一〇四一号同四一年一〇月六日第一小法廷判決・裁判集民事八四号五三三頁参照)、また、商品取引員が取引の受託につき委託者から同法九七条一項所定の委託証拠金を徴収しなかつたことは、その契約の効力に消長をきたさないことも当裁判所の判例とするところである(昭和四一年(オ)第一四一七号同四二年九月二九日第二小法廷判決・裁判集民事八八号六二三頁参照)。更に、商品取引員が同法九四条一項一号に違反して不当な委託勧誘をなし、それによつて顧客との間に取引委託契約が行われた場合であつても、右契約が商品取引に経験のある顧客の自由な判断ないし意思決定のもとに行われたときは、なんら公序良俗に反するところはなく、契約の効力に影響がないものというべきである。よつて、原審の確定した事実関係のもとにおいては、被上告人に同法九一条一項、九四条一項一号、九六条一項、九七条一項に違反する事実があつても、いまだもつて本件取引委託契約の効力に消長をきたすものではないとする原審の判断は、正当として是認することができる。

原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川信雄 裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田 豊)

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